鈴木湧也の現在地  〜晩秋、そして冬編〜

登ろうとしている山が家の近くの里山なのか、それとも世界の最高峰なのか?
登ろうとする山で、準備、装備、計画は変わるもの
湧也が登ろうとする山の高さはどれ程だったのか?

words by Molly + Yuya Suzuki

湧也の調子が上がってこない。
昨年のいい時からすると、遥かに状態は悪い。
2017年10月、僕らは再びイタリア ステルビオ氷河を訪れていた。今回から本格的にゲートトレーニングを始めた。アメリカのSGチームや世界ランキング1位の絶対的女王と言っても過言ではないエスター・レデッカなどと合同のトレーニングで環境としては申し分ない。
しかし、環境は最高でもそれで速く滑れるようになるわけではないし、何かが約束されているわけではない。活かすも殺すも自分次第だ。

湧也の調子が上がらない要因の一つとして、ゲートの滑り方を完全に忘れてしまっている。昨シーズンのいい時の状態をイメージしてもらえるような話をしても、「思い出せない」、「覚えていない」という答え。感覚に優れているアスリートは往々にしてその感覚を頼りにすることで、その調子を保ったり上げたりしている。しかし、環境が変わったり、使用する道具が変わったり、トレーニング方法が変わった途端に別人のような滑りに変わってしまい、その原因がわからなくなってしまうことがある。感覚は大事だが、感覚だけを頼りにした過信は禁物だ。

振り返れば、その兆候は既に春からあった。「もっと体重を増やさなければ」、「もっとパワーをつけなければ」、そんな話を湧也は僕に訴えてきていた。その理由を聞いても根拠に乏しく、外国人の選手を見て、いわゆる“隣の芝は青く見える”状態に陥っていることは明らかだった。しかし、“信じる者は救われる”(都合のいい言葉がそれぞれあるものだな)じゃないけど、自分の信じる方向性でやってみたらドンドン伸びることだってある。滑る本人が信じてやることが大事だし、理屈通りにいかない部分がスポーツの面白さであり、難しさだと思う。
夏のステルビオ合宿の時も、湧也は滑り方を変えようとしていた。それが僕には先シーズンの良かった自分自身までも否定しているかのように映った。もっと速くなりたいと思ってのことだと思う。でも、これまで積み重ねてきたものがあったから今があるのではないか。もちろん改善するべき所は変えていかなければならない。でも、変えてはいけない、続けていかなければならない、忘れてはならないことも同様に存在する。そこを安易に考えているのではないか、ということを何度も伝えてきたが、湧也の気持ちを響かせることはできなかった。それは素直に僕自身の実力不足だと思う。

本格的にゲート練習を始めてから3週間が経ち、湧也の調子は一進一退を繰り返していた。
ゲートにただ真っ直ぐ突っ込んでいくだけのような日もあれば、ちょっとこの先期待できるかな、という日が交互にやってくる。その頃には「体重増やさなきゃ」とか、「もっとパワーが欲しい」とか、短略的なことは言わなくなってきた。もちろん体重があった方がいいに越したことはないし、パワーだって欲しい。でも、その前に自分の特徴や長所が何なのか、パワーをつける為に必要なベースがどれくらいできているのか冷静に見つめることができるようになっていた。選手の気持ちとしては、すぐに目標とする山の頂上に辿り着きたいという気持ちはわかる。でも、そんな山の登り方はこの世に存在しない。自分が今、何合目にいて、この先の頂上を目指すのに、どのようなスキルや装備が必要なのかを見極めなければ登頂することはできない。そして、アスリートが登頂を断念する姿を数多く見てきた。周囲からみると、一気に頂上に登りつめたように見える選手も、人が見ていないところで用意周到な準備を怠らずにコツコツと積み重ねてきたシーンも数多く見てきた。
湧也もフィジカル面ではいい準備はできていたが、それが実際のスノーボードに活かせていないことが一進一退を繰り返すことの原因の一つだった。フィジカルをもう少し細かくみていくと、いわゆる体力的な面はいいが、それをうまく機能させる連動性やアジリティという面では物足りない。
単純にパワーをつけても、それを活かすスキルも身につけないとあまり意味がないということ。例えば、自動車の運転経験がほとんどなく、ある程度の車の構造や内燃機関の知識がない人がフェラーリに乗っても乗りこなすことができないのと同じこと。また、個々の選手の特徴によってもカスタマイズの仕方は変わってくることなので、湧也にとっては良くても他の選手にフィットするかどうかはわからない。そういう全体的なバランスをみて、何が必要なのか、どこに向かうのかを決めていかなければならない。

湧也が本来持っているはずのパフォーマンスを引き出せないまま時間は過ぎ、オリンピックに出場するために必要なワールドカップ出場すら叶わなかった。
日本に帰国する前に、あらためて二人で散歩しながら話し合った。
「今シーズンここまでやってきたことで上手く結果が出なかったことは悔しいし、結果として調整方法が間違っていたかもしれないけど、自分が決めてやったことなので後悔はないです」、「先のことはわからないけど、ここであきらめることはしたくないから引き続き頑張っていきたいです」、という話をしてくれた。
その上で、湧也が持っているはずのパフォーマンスが出しきれていない原因の一つとしてずっと考えていたことだが、使用マテリアルの一部を昨年までのものに戻すことにした。ナイキで速く走れる人もいれば、アシックスが合ってる人もいるし、ニューバランスが好きな人もいるし、もしかしたらアディダスがフィットしているかもしれない。マテリアルの優劣ではなく、自分にあったものが何なのかを見つけだすこともかなり重要だ。
最後にヨーロッパ遠征中に何かと協力してくれたシギーの家に挨拶に行った時に、シギーが湧也にアドバイスしていた言葉が印象的だった。
「湧也、良かった時のことを忘れるな。二流の選手は練習でちょっと良い滑りができたら、『俺は速い』ってすぐに安心してしまう。でも一流の選手は、良かった時のことを絶対忘れない。何をどうしたから良かったのか、もう一度同じようなパフォーマンスを出すには何をどうしなければならないのかをしっかりメモリーしているんだよ」。

鈴木湧也の旅はこれからも終わらない。

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鈴木湧也の証言その1

今回は約1ヶ月半の長い遠征でした。
イタリアでのゲートトレーニングをメインに12月の初戦に向けてしっかり調整をして来ました。

今回はアメリカの選手2人と一緒にトレーニングをしました。
2人とも昨年のワールドカップ出場者で、ベスト8進出も経験している選手です。
コーチのジャスティンも昨年まで選手として活動していて、アメリカのトップライダーとして長くワールドカップに出場し、ソチオリンピック出場も果たしました。
今まで一緒に練習することはなかったんですが、コーチ・選手ともに快く受け入れてくださって、いい刺激をもらいながらトレーニングすることができました。
約1ヶ月間一緒にトレーニングをしましたが、練習や道具に対する考え方の柔軟性がとてもあり、色々と学べることもありました。
「周りの選手がこういう練習をしてるから自分もこうする」とか、「周りの選手がこういう道具を使ってるから自分もこうする」ではなく、自分に何がマッチするのかを考えて迷わず選択しているように感じました。
当たり前かもしれませんが、それはとても難しいことで、ここ数年の彼らの急成長の秘訣でもあるのでは無いかと思います。自分もそんな彼らの刺激になれるようにと毎日必死に考え、上達することを考えて滑っていました。とても充実したトレーニングが行えました。

今回は12月の大会を見据えてゲートトレーニングをメインに行いました。
9月までの遠征では基礎的なところをしっかりと積み上げ、ゲートの中でそれができるように練習して来ました。
練習してきたつもりでした、、、、、笑
ですが、いざゲートトレーニングに入ると中々調子が上がらず、遠征前半はモヤモヤした状態が続きました。ついつい細かいところが気になってしまい、体の動きはぎこちなくターン全体の流れも掴めない感じでした。ですが、少しずつイメージを作り上げて、細かいポイントではなく全体の動きを改善して行きました。後半からは調子も上がってきて、まだまだ満足はしていませんが、自分の中でもしっかりと手応えを掴めました。
次の遠征までにもっとイメージをしっかりと作って行きたいと思います。

先日、公式にワールカップの選考基準が発表されました。
崖っぷちに立たされている状況ですが、まずチャンスがあることに感謝しています。
そして、絶対に獲ってやるぞって感じでメラメラしています。
やるべきことをやって、大会ではしっかりと実力を出し切ってこようと思います。
今後とも応援よろしくお願いします!

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鈴木湧也の証言その2

27日間のヨーロッパ遠征に行ってきました。
今回の遠征ではオリンピック・ワールドカップの選考にかかる重要な大会が控えていました。
大会は全部で4戦。そのいずれかで最低でもベスト8に入ることができなければ、今年のオリンピック出場は絶望的という状況でしたが、春からやってきたこと、そして自分の実力をすべて出し切れればその目標は達成できると思っていました。
ですが、実際はそんなに甘くありませんでした。
最初の2戦はイタリアで行われました。最高の準備をして挑んだ大会でしたが、初戦が22位、2戦目が13位でした。その約1週間後にオーストリアで開催された大会でも、34位、41位と惨敗でした。
長い時間をかけて準備をしてきたことでしたが、ふたを開けてみれば全く歯が立たなかったというのが正直な感想でした。メンタル、技術、身体全ての面で大会に調整して行くことができませんでした。それができるのが強いアスリートであり、勝てる選手なんだと再確認しました。
サポートしてくださっていた方々にいい報告ができなかったことはとても残念でしたし、とても情けなく感じました。
今では後悔していることもたくさんあります。
ですが、やってきたことの結果は目に見えて確認することができました。
今年、自分が目指していたところに近づくことはできませんでしたが、そのためにやっていたことや選んだことが間違っていたことが分かりました。とても悔しいことですが、ダメだったことは受け入れて、これ以上同じ失敗は絶対にしないと誓いました。
改めて自分が向かう方向を考えなおし、突き進んでいきたいと思っています。
気持ちを切り替えたところですぐに速くなれるわけじゃないし、結果が出るわけではないことも分かっています。
でも、あきらめずに踏ん張って、また地道に上を目指していきます。
今後とも応援よろしくお願いします。

鈴木湧也